この記事でわかること
- 目標達成の手法があふれているのに、目標を達成できる人が増えない構造的な理由
- 「やる気はあるのに行動できない」の正体=ボトルネック(できない理由)という考え方
- できない理由を対話で表面化させる、具体的な聞き方
- やるべきことは2種類あること(理想に向かう一手/ブレーキを外す一手)と、その順番
- 部下が行動しない理由を上司が分かり合えると、関係がどう変わるのか
「やればいいだけ」のはずが、やれない。
たとえば、時間の使い方に悩んでいるとします。朝の30分を確保する。会議を1本減らす。やることは、もう分かっています。手帳もアプリも買いました。それなのに、3日で元に戻る。言ってしまえば、ただのタイムマネジメントです。やればいいだけのはずです。それでも、やれない。
開発者の言葉
「これって、ただのタイムマネジメントのはずなんですよ。やればいいだけのはずなんだけど、だいたいやれない人って何かしらネックを持っているんですよね。だから、そのネックって何なんだろうという話です」
先に結論をお伝えします。やる気はあるのに行動できないのは、意志が弱いからではありません。あなたが使っている手法の側が、「できない理由」を扱う設計になっていないだけです。こちらでは、その「できない理由」——私たちがボトルネックと呼んでいるもの——になぜ時間をかけるのか、そしてどう扱うのかを解説します。
なぜ目標達成の手法はあふれているのに、目標を達成できる人は増えないのか
世の中には、目標達成の手法も成功哲学も山ほどあります。それなのに、うまくいっていない人がこれだけいるのはなぜでしょうか。SANOWマップが生まれたのは、この素朴な疑問からでした。
よくある目標設定の講座は、現状と理想とネクストアクションだけで終わります。今どうなっていて、どうなりたくて、そのために何をするか。構造としては正しい。理想をブレイクダウンすればネクストアクションになるので、理想の解像度さえ高ければ、何をやればいいかは自動的に分かります。
ですが、それで全員が実行できるなら、年初の目標設定が守れていたら、今頃私たちは全員スーパーマンになっているはずです。実際は、違いますよね。
開発者の言葉
「理想を聞いたらネクストアクションはすぐ出せるんですよ。だけど、それでできたら誰もがスーパーマンになれるわけで。目標設定したら誰もができるけれど、できない理由が個別にあるんですよね」
つまり、目標設定が続かない原因は、目標の立て方が下手だったからではありません。一人ひとりの固有の事情に、誰も着目していないからです。ここに着目していない限り、次にどんな優れた手法を試しても、同じところで止まります。
足りないのは意志ではなく「異常系」という発想です
SANOWマップは、脳科学や心理学ではなく、製造業のプロセスをベースに設計されています。そして製造業やIT開発の現場には、「異常系」という考え方があります。設計図どおりに動く前提を正常系と呼ぶのに対し、現場で必ず起きるイレギュラーパターンをあらかじめ洗い出して手を打っておくのが異常系です。優秀な設計者ほど、ここに時間をかけます。
人間の行動も同じです。「やればいいことが、なぜかやれない」は、人間における異常系です。ところが目標設定の世界では、この異常系がほとんど設計されていません。正常系だけで完結している。だから、つまずいた瞬間に手法が効かなくなるのです。
開発者の言葉
「タイムマネジメントに限らず目標設定とか、僕らがAIだったら普通にできるはずのことが、なぜかできていない。だから『それ何だろう』というのを、最初の問いの段階で持っておけるといいですね」
AIなら、指示された手順を淡々と実行します。迷いません。サボりません。にもかかわらず、私たちにはできない。その差分こそが、人間固有の情報です。そこを見ずに手順だけを増やしても、行動は変わりません。
ボトルネックは、欠陥ではなく「人間らしさ」です
ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。私たちは「できない理由」をボトルネックと呼びますが、ボトルネックは直すべき欠陥ではありません。人間らしさそのものです。
人間はロボットではありません。やればいいと分かっていても、「やらなきゃ」で動いていたり、正直やりたくなかったりすると、動けません。この「やらなきゃ感」「やりたくない感」を炙り出すのがボトルネックです。失敗が怖い。悪く思われたくない。本当は納得していない。どれも、機械には発生しない事情です。
「わかっているのにできない」という心理を、多くの人は自分の弱さとして処理し、自分を責めます。ですが責めた瞬間に、その事情は隠れてしまいます。ボトルネックは、責める対象ではなく、扱う対象です。この一点が変わるだけで、対話の質はまったく変わります。
組織変革の現場でも痛感したのは、心から自分たちが変わりたいと願わないと人は変われない、ということでした。良い意味でも悪い意味でも、それが人間らしさです。だからSANOWマップは、このエラーパターンにこそ徹底的に注目し、実際のセッションでもここに一番時間を割きます。218社・1,508事例で検証してきて、この配分が最も行動につながるというのが私たちの結論です。

「できない理由」は、どうやって見つけるのか
コツは、対話の最初から仕込んでおくことです。後半になって「ところで、なぜできないんですか?」と聞いても、たいてい間に合いません。
問いの段階で「なぜかできていない」を握っておく
対話を始める時点で、聴き手が心の中にこう置いておきます。「単純にやればいいだけのはずのことが、なぜかできていない。何だろう?」。この一文を持っているかどうかで、相手が語る現状のどこに引っかかるかが変わります。
現状の早い段階で、こう聞く
「いろいろやってきたんですね。それでも、やれない。なんでなんですか?」
ポイントは、努力を先に認めていることです。責める響きがないので、相手は身構えません。そして「なんでなんですか?」は、対策の列挙ではなく事情のほうへ話を向けます。ここから、いきなりボトルネックの話に飛ぶこともあります。それで構いません。
具体を聴きすぎない
注意点がひとつ。具体を聴いていくと、いくらでも出てきてしまいます。何時に起きて、何曜日にどの会議があって——情報は無限に集まりますが、行動は1ミリも変わりません。具体を聴きながら、意識は「なぜできないのか」へ寄せていく。この二重の運転が、できない理由を早く表面化させるコツです。
なお、これを一人でやるのは難しいのが正直なところです。自分のできない理由は「当たり前の事情」なので見えません。誰かに聞かれ、口に出して、初めて言葉になります。

やるべきことは2種類ある — 理想に向かう一手と、ブレーキを外す一手
できない理由が見えると、次にやることが変わります。SANOWマップでは、ネクストアクション(次にやること)は2種類あると考えます。
- ① 理想を実現するためのネクストアクション:理想をブレイクダウンして出てくる、前に進む一手。
- ② ボトルネックを解消するためのネクストアクション:進めない事情そのものを外す一手。人によって完全に個別です。
多くの目標管理は①しか持っていません。ブレーキを踏んだままアクセルを増やすので進まず、「自分は意志が弱い」という結論に着地します。②を1つ置くだけで、①の実行率が変わります。

SANOWマップは、S(問い)→ A(現状)→ N(理想)→ O(ボトルネック)→ W(ネクストアクション)の5項目で構成されています。頭文字をつなげて「SANOW」です。そして最後のW(ネクストアクション)には、①理想から出した一手と、②ボトルネックから出した一手の2種類が並びます。この2つが同じ場所に並ぶだけで、「やりたい一手」と「それを止めているもの」が同時に見えるようになります。
「本当にやりたいことですか?」で最後に確かめる
①には必ず確認を入れます。「やればいいのは分かっているけれど、それ、本当にやりたいことですか?」と、理想につなげ直すのです。理想はきれいな目標文ではなく、行動のエネルギー源だからです。理想の臨場感が高まっていないと、ネクストアクションは出ても実行するかどうかが不安定になります。行動できないときに疑うべきは、意志ではなく「理想の解像度」と「できない理由」の2つだけです。
部下が行動しない理由を分かり合えると、なぜ関係が変わるのか
ここまでの話は、そのまま1on1にも当てはまります。部下が行動しない理由を、上司はたいてい知りません。聞いていないからです。多くの1on1は、進捗確認と次のタスク確認、つまり①のネクストアクションだけで終わります。
そこに「それでもやれないのは、なんでなんですか?」を1つ足すと、会話の中身が変わります。率直な事情を話し合うと、悔しさや不安といった感情も出てきます。そのうえで「では、どう対処するといいか」を2人で考えられる。評価する側とされる側から、同じ課題を一緒に見る2人へと、立ち位置が変わります。
開発者の言葉
「ボトルネックを分かり合える上司になれるというのが、その辺のマネージャーとまるで違う存在になれるということです。これをずっと積み重ねると、信頼関係が本当にすごくなるから」
できない理由を分かり合えている関係では、人は言い訳をしなくなります。隠す必要がないからです。ここに向き合える関係ができると、職場の雰囲気そのものが変わります。できない理由に時間をかけることは、遠回りではなく、信頼関係への最短ルートだと私たちは考えています。
とはいえ、ここまで読んで分かるのは2割です。残りの8割——「聴かれながら、自分のできない理由が目の前に見えてくる」感覚は、体験しないと伝わりません。
まとめ|できない理由に時間をかけるのは、遠回りではありません
目標を立てても行動できない本当の理由は、意志の弱さではありません。手法の側が「できない理由」という異常系を持っていないからです。現状・理想・ネクストアクションだけで組み立てられた計画は、正常系の設計図です。私たちは人間なので、そのとおりには動きません。
だから、順番を変えます。もっと優れた目標設定を探すのではなく、いま止まっている理由を1つ、言葉にする。そのうえで、理想に向かう一手と、ブレーキを外す一手の2つを置く。これだけで、同じ目標が動き出します。
ボトルネックは人間らしさです。直す必要はありません。見えるようにして、扱えばいいだけです。
【Q&A】目標が続かない・行動できない理由についての解説
Q1. やる気はあるのに行動できないのは、意志が弱いからですか?
A.多くの場合、原因は意志ではなく「できない理由(ボトルネック)」が扱われていないことです。失敗が怖い、納得していない、そもそも自分の望みではない——こうした事情が残ったままだと、正しい手順を足しても行動は変わりません。まず事情を1つ言葉にしてみてください。
Q2. なぜSANOWマップは「できない理由」にここまで時間をかけるのですか?
A.目標達成手法があふれているのにうまくいかない人が多いのは、一人ひとりの固有の事情に着目していないからだと考えているためです。SANOWマップは脳科学ではなく製造業のプロセスをベースにしており、「本来できるはずのことができない」というイレギュラーパターン=異常系を扱うことを設計の中心に置いています。
Q3. 自分の「できない理由」を一人で見つけることはできますか?
A.難しいのが正直なところです。自分のできない理由は、自分にとっては当たり前の事情なので視界から外れています。「いろいろやってきた。それでもやれない。なぜだろう?」と聞かれ、口に出して初めて言葉になります。だからSANOWマップは、書きながら対話する形をとっています。
Q4. 部下が行動しない理由が分かりません。何から始めればいいですか?
A.次のタスクを確認する前に、「それでもやれないのは、なんでなんですか?」を1つ足してみてください。責める響きのない聞き方であれば、事情のほうが出てきます。それを2人で扱えるようになると、進捗管理の場だった1on1が、信頼関係の積み上がる場に変わります。この変化は感覚だけでなく、数字でも追いかけることができます。
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